住宅

設計者にとって一番楽しいジャンルではないかと思う。
打合せの段階から喜び、感動、そして落胆もストレートに飛んでくる。
「この縁側見たら、おばあちゃん泣くやろなぁ」とか、勝手にワクワク想像して
深夜までプレゼンのスケッチを描いてしまう。
会心の作のつもりでも、売上、稼働率、作業動線というようなデータでの評価が入る
業務物件とは違い、ストレートに好きか嫌いかという主観で判断してもらえる。
一番楽しいし、一番難しい建築だと思う。

医療・福祉施設

病院、診療所、お年寄りの施設、子どもたちの施設にスタンダードは無い。
沢山の施設を見学させていただき、多くのアドバイスをいただいたが、答えは施設 の数だけあった。
設計する上で大切なことは、施設を経営・運営する人たち、前線の現場で働く人たちと
どこまで想いを共有できるかである。
同時に設計者は、そこを利用する人たちの立場にならなくてはいけない。
手術室の待合を検討するときには、もし自分がここで家族の手術が終わるのを待っていると したら...
というように、その気持ちになって仮想空間に佇まなければならない。
お年寄りの施設の場合は、もし自分の親がここで暮らすとしたらと思い、トイレの扉の仕様等を検討していった。
いつの頃からか仮想入居者が親から自分に変わったが、
「自分がここで暮らすとしたら」というシミュレーションは続いている。

スーパーマーケット・物流施設

スーパーマーケットは、都市生活者の食生活を支える施設である。
街にあふれる、ローコストで目立ちたがりなこの施設を、限られた予算の範囲内で少しでも
美しくデザインしようと努めている。
頑張ってデザインしたスーパーマーケットを街に供給し続けることで、街並みの平均点を少しでも上げたいと思っている。

また、生協の共同購入の基地になる施設を数多く設計させていただいた。
事業の仕組みは大きくは変わらないが、システムの変更、マテハン機器の変更、トラックの変更等々、
時代と共に進化し続けている。特にそこで働く人たちに対するハード・ソフトの進化には目を見張るものがある。
働き手にやさしくない施設は時代遅れになるのである。

商業施設

商業施設の設計というのは、最終的には事業所や店舗という器をつくるのであるが、
その中身である広い意味での商売をしっかり理解しないと成功する器はつくれない。
設計させていただいた数だけ、事業主からその商売についての本質を教えていただいたし、
必死で勉強してアドバイスもした。
私が駆出しの頃、厨房の打合せでベテランの職人さんから「魚もさばいたことのない奴がっ!!」と怒鳴られたことがある。
そのときは引き下がったが、経験が無いとものを言えないなら設計という仕事は成り立たない。
経験が無くても机上の勉強で勝ってやると思った。そして、その努力をずっと続けている。
たとえ経験が無い業種でも、その業界のベテランを唸らせるのが設計のプロである。

その他
保存・再生・集合住宅

再生工事とは、使いやすいように改修するのではなく、元の姿に再生しながら
今の暮らしに対応させるための、最小限の工事をすることであると思う。

集合住宅はすべて、オーナー・住まい手・地域住民の三者のコミュニケーションが
必要な賃貸住宅である。魅力的なコミュニティは上質なコミュニケーションから生まれる。